2020年11月11日、プロセスマイニングのマーケットリーダーであるCelonisのオンラインイベント「Celonis World Tour 2020 – Japan」が開催されました。このイベントでは、日本で先進的にプロセスマイニングに取り組んでいらっしゃるお客様の導入事例として、まずSmartHR様、次にミスミ様、最後にKDDI様にご登壇いただき、各社様の導入に至った経緯やプロセスマイニングがどのように業務改革に貢献しているか、生の声で語っていただきました。
またCelonis CEOによる最新ストラテジーのアップデートや、 新製品のデモなど、業務改善やDXを成功に導くための最新情報をご提供いたしました。
本稿は、各セッションのエッセンスを紹介するイベントレポートの後編となります。(前編はこちらをご覧ください。https://www.celonis.com/jp/blog/cwt2020jp1)
2 Celonis活用方法ご紹介:業務課題はどのようにしてCelonisで改善できるのか
~「一般的なBPRの導入プロセス」との比較で分かるプロセスマイニングの高付加価値~
寺岡 剛 Celonis株式会社 Solution Engineer
2019年から日本市場で本格的に活動を開始したCelonisは、これまでに20社以上のライセンス導入を進めています。その際の対象システムはSalesforceやSAPなどのパッケージ製品だけではなく、スクラッチ系のユーザー独自システムも挙げられます。
その中で本格導入に至るまでにユーザーから寄せられる不安について明らかにしてみました。それらは以下のような不安です。
有効性がまだわからない
改善にまで至るイメージがわからない
ROIがでるのか?
「自分たちのシステムでも対象となるのか
そこで寺岡は「一般的なBPRの導入プロセス」を例に、その課題について話を進めていきます。
「BPRでは、検討、分析、設計、実施、評価というプロセスで進めていきますが、例えば業務の実情を把握し分析する段階で、多大な時間とコストがかけられることが多い、ということはお判りでしょう。社内の聞きとりも手間がかかりますし、コンサルティング企業に支払うコストも相当なものになるはずです。そのうえ、そこで得られた知見は果たして客観的で網羅的なのかといえば、かなり疑問が残ります。また、最後の効果に対する評価についても継続的なカイゼン活動ができるようになっているか、という不安も大きく残るのではないでしょうか」
ではCelonisを利用した場合はどうなのでしょうか。
「Celonisの場合はテンプレートを利用すれば、業務プロセスに関連するデータを迅速かつ網羅的に取得することができます。こうして得られたデータをもとにヒアリングをすることができるので、フォーカスを絞った情報収集を効率的に実施できます。」
「また分析だけでなく、プロセス改善を実施する場合も、Celonisは実行に移すためのツールが用意されているので、設計、実施というBPR上のプロセスもスムーズに進めることが可能です。」
「さらに改善の効果を客観的なデータで測定でき、そのデータを見ながら、新たな改善プロジェクトを回し、一度では終わらない継続的な改善活動を実施し、成果を上げ続けることができます」
Celonisの導入による改善活動を上手に進めていくコツとして、寺岡は「ゴール設定の重要性」を説きます。
「Celonisで実現したいことを明確にし、どんなKPIを用いて具体的な数値目標を達成するかというところまで落とし込んでいけるかどうかが、鍵となります。もちろん、ゴールは一つではないと思いますが、Celonisは1つ、1つの目標を素早く、正確に達成する上で役立つツールとも言えます」
Celonisではスクラッチ開発されたシステムのデータログの収集についても、テンプレートを利用できない場合にどのように進めていくかについて豊富な知見を蓄積しています。またさまざまな教育プログラムも用意しており、どんな組織でも必ず役立てることができるようになっています。
3-1ユーザー様導入事例:SmartHRとアビームが挑むDX変革
~Salesforce営業プロセスの効率化~
藤井 直人 様 株式会社SmartHR 全社OPSグループ マネージャー
武田 拓也 様 アビームコンサルティング株式会社 P&T Digitalビジネスユニット マネージャー
SmartHR様は、人事・労務関連のクラウドサービスを提供する企業です。サービス開始から約5年が経ち、利用企業も3万社を超えるようになりました。まさに急成長企業です。そんな同社では仕事の細分化、商流の複雑化などにより、オペレーションの不統一、顧客のバラエティが増えたことによる営業アプローチの複雑化などが顕在化していきました。
藤井様は「改善を進めていくには、とにかく現状を把握しなければならないと考えましたが、約300人のスタッフに1人ずつヒアリングしていくのはあまりにも非効率だと感じました。そこで思いついたのがプロセスマイニングでした」と話します。
それを受けて武田様は「藤井様のお話を聞いて、単純にCelonisを導入するのではなく、DXの第一歩だととらえるべきだと考えました。そこでCelonisを使ってSalsforceに登録された4か月分のリード数万件の営業プロセスを見てみましたところ、数千のパターンが存在していることが分かりました。これにはさすがにびっくりしました」
そこで両社はSalsforceの営業プロセスをCelonisで可視化し、継続的に改善できる基盤を構築しました。これは日本では初めての試みでした。
Salsforceには電話、メール、商談といったアクションの履歴が残されているのですが、それらは「リード」「商談」「取引先責任者」といった異なるオブジェクトにバラバラに蓄積されていました。
そこで複数オブジェクトにまたがる営業活動履歴として可視化したのです。
その後、SmartHR様にとって重要となるKPIとはどんなものかを検討していき、それを測るにはSalsforce上のどんな項目が必要になるのかを設定していきました。もちろん、KPIは複数存在しています。例えばそのうちの1つに「商談化率」というものがあり、これを正確に測定するには「営業担当者の稼働率」「コンタクト回数」などの数値が必要だと分かり、レポーティングできるようにシステムを作りました。
こうした取り組みで具体的に何が見えてきたのかについて武田様は次のように話します。
「平均的な成約までのプロセスでは、リード作成後効率的にメールや電話を使ってコンタクトを取り、成約につなげています。しかし成約に多くの時間を取ってしまったケースでは、電話でのコンタクトからスタートし、その後メールと電話を何度も使いながら成約をとりつけたことが分かりました。」
「そこで相手の業種や規模によって、成約に早期に結び付けやすい、コンタクトの方法、パターンを分析し、それをリアルタイムにわかるようにしました」
こうした取り組みによってSmartHR様では、電話やメールなどのコンタクトは一定回数を超えると効果がかなり薄くなっていく、といったことが分かってきました。
こうした傾向は、実際の現場ではなんとなく感じていたことかもしれませんが、はっきりと数値化して示されるものではなかったといいます。
このように、Celonisの分析により、業務効率化にもつながるアクションを客観的なデータで共有することができるようになったのです。
3-3ユーザー様導入事例:プロセスマイニングで実現する、 現場主体型のシステム開発
~「数値化できない業務は改善できない」だからCelonisが必要となる~
近藤 裕司 様 KDDI株式会社 技術統括本部 次世代運用推進本部 運用システム開発部 プロセスマイニンググループ グループリーダー
続いて、KDDI株式会社の近藤 裕司様が登壇しました。講演テーマは「プロセスマイニングで実現する現場主体型のシステム開発」です。
近藤様は長年の経験から「数値化できない業務は改善できない」と話します。
「結局のところ、誰も現状を把握できず、どれだけの仕事のやり直しが発生していて、どれだけの工程でどれだけの仕事が発生しているのかということがわからないまま、改善の要求が出されていることがあまりにも多いのです。Celonisを導入してプロセスマイニングをしていこうと考えたのも、こうした実情からでした。Celonisは複雑な業務の関係性を明確にしてくれます」
近藤様は、さらに現状がはっきりと分からないのに、一度のプロジェクトで改善ができるわけがないと話します。業務の問題点はなんとなくわかるのに、それを数値化することはできないということが意外と多く、複雑なプロセスだとヒアリングしているだけでは問題点を把握できないのです。
「Celonisを利用することで、データに基づく分析が可能になり、業務改善に柔軟に踏み込めるようになります。いつ、どこで何が起きているのかを知ることができ、業務が変化していることにもすぐに気づけるようになります。つまり数値化さえできれば、業務改善のスピードは飛躍的に向上するのです」
また近藤様は、Celonisを活用していく上での大切なポイントは、体制構築をどうするか、イベントログをどう集めるか、改善をどう実現するか、ということだと話します。
「我々は多くの場合、業務プロセスをデータ分析することに慣れていません。まずそうしたことに慣れることが大切です。慣れないまま改善課題をヒアリングするとプロセス以外の問題点ばかりが出てきてしまいます。また組織や部署をまたいだプロセス改善についても、認識が甘くなります。Celonisを活用して思ったのは、このツールはそうしたいくつかの組織をまたいだプロセスの課題を抽出してくれる、ということです」
こうした問題に対して近藤様は、「業務をデータ化し評価する仕組みをまず作るべきだ」としています。さらにイベントログをどう集めるかについても、改善チーム全体で「データを見つけ出そうという努力が必要だ」とのことです。そして改善をどう進めるかという課題については、「打ち手を早くしていくことが大切だ」といいます。そのためには、「改革的な仕組みを一から構築するのではなく、改善を続けやすい仕組みを作ることを優先すべきだ」といいます。
最後に近藤様は「経験と勘だけの時代から脱却して、価値あるものをデータ化して改善していくことで仕事の喜びを分かち合う仕組みを作ることができるのではないか、と考えています。そうした意味でCelonisはとても有効なツールですが、日本はプロセス管理が甘い傾向があり、改善がうまく進まないケースがでてくるのではないかと思います。そうした状況の中では、例えばCelonisのユーザーコミュニティは重要な役割を果たすのではないかと考えます」と話してくれました。
4パートナー対談:SAPの長年の夢「プロセス改善」を Celonisで実現する
宮田 伸一 様 SAPジャパン株式会社 常務執行役員 クラウド事業統括 福島浜通り復興・再生支援担当
小林 裕亨 Celonis株式会社 代表取締役社長
SAPはCelonis設立以来のグローバルパートナーです。宮田様はCelonisが果たす役割は、SAP導入においても極めて重要になっていると話します。
「SAPのERPは改善を進めて導入期間を短くするようにしてきましたが、業務の棚卸しをしていかなくてはならないため、稼動開始までにどうしても1年くらいはかかっていました。しかしCelonisのようなツールが登場したことで、この業務の棚卸しや、改善がスピーディに進められるようになり、ERPの導入も短期間で済むようになりつつあります」
また、小林から「SAPとCelonisの組み合わせで、ユーザーの企業のDXはどう進化していくと思いますか」と問いかけられたのに対し宮田様は、「システム活用の2割のカベ」という言葉で解説してくれました。
「ある調査によると、日本企業のシステム関連予算の8割弱はシステムの維持管理に使われ、新規開発は2割程度という状況がずっと続いています。残念ながらSAPのERPもこの中に含まれます。導入時にはBPRプロジェクトを実施するものの、導入されれば、システムの維持管理に回り、“塩漬け状態”になっていきます。つまり継続的な改善活動ができなくなっているのです」
こうした状況の中で、Celonisというツールは導入期間を短期化させることと同時に、継続的なBPRを回していく上で欠かせないものとなるはずだと宮田様は話します。
「本来は、システム化するプロセスというのは、こうした継続的なBPRがしっかりできている組織の業務プロセスのはずです。しかし日本企業の場合、現場が強いこともあり、業務プロセスのあるべき姿の定義がきちんとされないまま、システム導入が進み業務が固定化してしまうケースがあります」
これに対し小林は、業務プロセスの定義がしっかり議論できない状態の組織が、一気にプロセスを最適化できる組織にはなれないけども、Celonisで分析し、改善していくことで段階を追ってレベルアップしていけるだろうと指摘します。それに対して宮田様は、そうした改善が「ホワイトカラーの生産性向上」に大きく貢献するのではないか、と話しました。
日本企業でも業務プロセスを根本から見直し、DXを実現した企業も少しずつ出現してきている中で、今後はSAPとCelonisが共同で、DXの成功事例を話し合う「ユーザーコミュニティ」を作っていきたいというアイデアが出されました。
最後に小林は、「当社の製品については、今後も可視化にとどまらず、自動化など新しい技術をサポートします。よって、新たな専門性の高いパートナーとの展開を進め、幅広い企業様のお役に立ちたいと考えています。日本でも、さらに新しいユーザー事例なども発信していき、プロセスマイニングの有効性をアピールしていきます。どうか今後ともCelonisのリューションにご期待ください」と話し、イベントを締めくくりました。
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